市立小樽美術館 市立小樽美術館協力会

KANCHOの部屋

谷口明志 インスタレーション 線の虚構

 日増しに春の陽気に包まれる市立小樽美術館2階展示場の特別展「谷口明志 インスタレーション 線の虚構」(1月10日~3月15日)は、ともすれば“難解”と片付けられそうな「現代美術」なのだが、1階の常設記念ホールの「中村善策コレクション名作選 信州」(油彩19点出品、~4月19日)と3階常設記念ホールの「幻視者 一原有徳の世界5 ミニアチュールによる版のいろいろ」(55点出品、~同)の3会場の雰囲気が奇妙に響き合うように思えて、来館者の見応え感を誘っているのではなかろうか。

 小樽出身の谷口明志(道展会員)は1983年北海道教育大学在学中から道展に発表を続け、新人賞、佳作賞、会友賞の受賞歴を経て会員として活躍する道立高校教師(現在北広島高校勤務)だが、公募展のみならず、自ら組織するグループ展「Plus1」では札幌、小樽、苫小牧など道内のみならずニューヨーク、韓国ソウル、大邱、ヴェトナム・ハノイなど海外展でも頻繁に活躍している現代美術家である。今回は生まれ故郷で初めてともいえる本格的な“個展”となり、展示会場をアトリエのようにして文字どおりの最新作品の発表となった。

 「インスタレーション」は「架設展示」と訳され、会場空間をキャンバスに見立てたように壁や柱、床面に合板や針金、アルミニウ線、段ボール、アスファルトフェルト、アクリル絵の具、スポットライトなどを使って作品を仕立て上げる芸術手法である。会期直前の数日は制作の様子も公開された。作品のタイトルは「線の虚構」と「線の解釈」で11点の出品。現代美術家谷口明志自身の制作意図を紹介すると―「(画布は)矩形が当たり前といった既成概念は、現代社会のさまざまな制約に似ているように思えてなりません。暗黙の“みんながこうするから…”といった無用な馴れ合いが作品の可能性を狭めているかも知れないと感じています。同じ作品であっても、置かれる環境によって見え方は変わるはずです。逆にいうと環境が変わると見せ方が変わる場合もあるのです。それが仮設的な作品であるインスタレーションを制作する理由です。展示場がキャンバス代わりと言っていいかもしれません。矩形という制約に変わる制約であり、モチベーションを生んでいます」。kei-tani

 板を継ぎ合わせた8本の“線”が高い天井の壁と床面に張り巡らせた円形の作品を見ていると、それを鑑賞している動く人物も作品の中に取り込まれ、作品化される不思議を体験したものだった。

 1階の風景画の大家中村善策の作品は、中村が戦中戦後疎開生活を過ごした信州の風景の伝統的具象画だが、このホールから谷口明志の2階会場を経て3階の一原有徳ホールに入ると、ここは抽象版画がズラリと展示された一原ワールドの異空間が待っている。手前ミソ覚悟で言わせてもらおう。「この展覧会3点セット、見なけりゃ損々…」。

 最後に期間中の「小樽雪あかりの路」開催中の2月11日、イタリアのセリエAで活躍したサッカー選手中田英寿がひょっこり展覧会場を訪れ(もちろん、お忍びで)、美術家谷口明志とも親しげに「いい展覧会だねェ。ボク現代アート好きなんですよ」と語りかけた。今や「レジェンド(伝説)」といってよい中田英寿氏は、国内はもちろん世界各地の美術館めぐりを楽しんでいるそうだ。

▲pagetop