市立小樽美術館 市立小樽美術館協力会

KANCHOの部屋

『イチハラ・ファンタジー』を楽しんで

keiji-ichi1[1] 2007年の幕開けを飾る当館の企画展「一原有徳(いちはらありのり)・版の魔力 96歳のドローイングとともに」(1月27日~5月20日)が始まりました。当館脇を通 る旧国鉄手宮線跡地の軌道では、これも開幕間近の「第9回小樽雪あかりの路」イベント(2月9日~18日)の準備作業が進んでおり、祭り好きの小樽っ子はスノーキャンドルやらアイスキャンドルやら、さまざまの工夫をこらした灯の制作に余念がない。この期間に当館も9日から18日まで館内の吹き抜けを多色にライトアップ、イベントの盛り上げにひと役買おうとしています。
 さて、本題の「一原有徳」展です。
 一原有徳という存在をひと言で表現すれば「小樽が産んだ国際的版画家」となるでしょう。版画といえば木版、石版(リトグラフ)銅版(エッチング)シルクスクリーンなどがよく知られる作品ですが、一原の場合、この“常識”からどんどん飛躍して、独自の「イチハラ・ワールド」あるいは「イチハラ・ファンタジー」とも言える作品群を創出してきました。
 直径50センチほど、高さ3メートルの円柱にモノタイプ版を巻きつけた作品はトーテムポールでしょうか。壁面 をおおう白黒モノトーン大型組版は大都市の喧騒か。スチール版をアセチレンバーナーで焼き込んだというブランディング技法の作品。さらにはバイクのチェーン、歯車の真空間、トランジスタラジオの配線パネル、ボールベアリング、モーター、時計の文字盤など、手当たり次第と思えるほどの部品類を組み合わせた作品も見られます。どんな素材も作品にしてしまう旺盛な創作意欲には驚かされるばかりです。
 そのタイトルは「H96-2」「COM ZON」など、アルファベットと数字が並び、単なる記号のようで、意味を読みとること不能です。「作品は作家の手を離れるとひとり歩きするもの」と言われますが「イチハラ・ファンタジー」は、まさにその典型でしょう。
 96歳の高齢ながら、最近は絵具を紙に垂らす技法(ドローイング)で制作活動は衰えていません。ただ、高齢による体力の衰えには勝てず外出は見合わせており、残念ながら今回の展覧会場に姿を見せることはかないません。
 ともあれ、小樽が産んだ偉才による「イチハラ・ワールド」を多くの美術ファンに楽しんでいただきたいと念じています。
 また、この機会に世田谷美術館長である酒井忠康氏の講演会「幻影の“版”に生きる96歳の一原有徳」(3月17日、当館第1研修室)を計画しており、多数の聴講を来たいしています。
 一方、常設展の中村善策ホールでは「中村善策-水面の詩情」と題して、収蔵作品の中から20点を展示していおり、一原有徳展と合わせてご観覧ください。 keiji-ichi2[1]

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