一原有徳は1910(明治43)年、徳島県に生まれ、幼くして両親とともに北海道に移り住み、長く小樽を拠点に活動を続けました。多くの美術家のように青年時代から版画家をめざしたのではなく、小樽地方貯金局(現 市立小樽文学館・美術館)の官庁勤務の合間をぬって多くの俳句史に投句したり、登山家として北海道各地の山々を踏破したことで知られていました。美術の道に入ったのは40歳を過ぎてから職場の先輩の指導を受けて油絵を始めたことがきっかけで、1957年モノタイプ版画に着手し、異星の光景を思わせる硬くエレメンタル物質的世界を描き出し、国内外の重要な展覧会に招待出品され、注目を集めるようになりました。以後、一原は未知なるものを求めて、日々実験的に技法を獲得し、版の概念を拡大し、次々と新しい表現を生み出してきました。「独創性」につよくこだわりを持ち続け挑戦してきた一原の業績は高く評価され、1990年北海道文化賞、1996年地域文化功労賞文部大臣表彰を受けています。