小樽・水彩画の潮流
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小樽画壇は油彩とともに水彩画の分野もその伝統と層の厚さを 誇る。その歴史的流れに焦点を当てた企画展「小樽・水彩画の潮流」(2月27日~5月9日)が当美術館2階ホールで始まった。副題は「平沢貞通 ・埋もれた画業の発掘」である。戦後の混乱期に東京で発生した「帝銀事件」の犯人として捕まえられ、無実を訴えながら死刑囚として獄死したあの平沢貞通 (1892~1987)は、大正時代から昭和初期にかけて帝展や光風会を舞台に中央画壇で活躍したが、裁判による死刑判決とともに残した300点にも上ろうという作品群は散逸、画壇仲間との人間関係も崩壊する中でその輝かしい画業自体が歴史の闇に埋もれてしまったのである。
当美術館は昨年開館30周年を記念して特別展「画家たちのパリ」を開催、その中で大正―昭和期にパリ遊学を果 たした小樽出身の長谷川昇、小寺健吉、工藤三郎ら洋画界の先人の画業を紹介したが、旧制小樽中学出身の平沢貞通 は彼らと同時代人であり、1914(大正3)年には自らも創立に関わった日本水彩 画会研究所の小樽支部を設立、当時青少年期にあった三浦鮮治、兼平英示、中村善策、国松登ら後進に大きな刺激を与える功績を残したのである。こうした平沢の画業に光を当て、再評価を世に問うのは当美術館の使命、義務ともいえる。
平沢に無実を信じ「再審請求」の弁護士だった父の遺志を継ぎ平沢と養子縁組みした息子・武彦氏(東京在住)をはじめ各方面 の支援者の協力を得て31点の作品展示がここに実現した。公立美術館としては初めての規模となり、感慨を覚えている。
「水源(伊佐内川)」森田正世史
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「丸山晩秋」氏家和夫
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今回の企画展はこれらの平沢作品を軸にして続く小樽水彩画界を担ってきた宮崎信吉、森田正世史、繁野三郎、板倉力蔵、中島鉄雄、大和屋巌、鈴木儀市、坂東義秋、氏家和夫、白江正夫、笹川誠吉、高橋好子ら合わせて13人の水彩 画67点が壁面を飾り、見応えのある高水準の内容になったと自負している。幸い開幕から入館者の出足は好調で、その数も通 常の企画展を上回るペースをみせており、さらなる入りを期待している。
また、1階常設の中村善策記念ホールでは「四季の彩り・春夏秋冬」のタイトルで新収蔵品の「山湖」(絹地に油彩 画)をはじめ日展や一水会展に出品された20点を展示している。
「マテラ街景」笹川誠吉 | 「さいはて」白江正夫 | 「婦人像」宮崎信吉 |