市立小樽美術館 市立小樽美術館協力会

KANCHOの部屋

阿部典英展

K-ABE[1] 小樽市朝里川温泉にアトリエを構える美術家、阿部典英の特別展「心の原風景―海への回帰 阿部典英展」(8月4日~9月17日)は、 先に閉幕した「風土への賛辞 木嶋良治展」に続く特別展「心の原風景」シリーズのPartⅡ。小樽運河や水の都ヴェネチアの水辺風景などをモチーフに油彩タブローで静謐な世界を描き上げ見せてくれた木嶋展から展覧会場は一転。若き日の油彩画から立体、それも最近作の巨大な 「ダンナサン」「オヨメサン」シリーズなどが会場狭しと出品され、見応えのある展覧となった。
 同時に出版された図録に記した一文からの再録を許してもらおう。
 なに気なく身の回りに存在するモノ、素材に阿部典英の感性と思考、そしてその手にかかると、平面から立体まで多様多彩としか言いようのない作品となってしまう。破天荒な世界。その創作活動をどう表現するか。「器用な仕事」といってしまえばそれまでだが、テンエイ・ワールド を見ていると言語による表現力の貧困を痛感することになる。
  この小樽展に先がけて北海道立近代美術館で開かれた「阿部典英のすべて―工作少年、イメージの深海をゆく」に触れて作家荒巻義雄は 「ブリコラージュ」(あり合わせの材料でつくる器用仕事)と受け止め、文化人類学の泰斗で構造主義者のレヴィ・ストロースの著書「野生の思考」 から引用して「未開人でも野蛮人でもない野生人の思考」と位置づけた。「パンセ・サバージュ(野生の思考)」とは、「概念からの思考ではなく、モノから発想される思考」つまり「モノ思考」が作品群となって繰り広げられるのが阿部典英の世界というわけである。
  その表現に使用される素材は木材、金属、ウレタン、皮革、石片、貝がらなどなんでもござれで、その営為を個別の作品で見詰めていると製造、 製作、工作、造型、制作、創造、創作などの言語が次々に浮かんでは消えていく。作品にぐんと近寄ってみると細密な作業ぶりに驚かされることに もなる。例えばサカナの写実画はこの作家の器用ぶりを物語る典型といえようか。少年時代を過ごした後志の日本海岸のムラ島牧が今回展のタイトル「心の原風景―海への回帰」となった。

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