市立小樽美術館 市立小樽美術館協力会

KANCHOの部屋

新収蔵~小樽美術の流れと現況

keiji-ssz[1] 市民運動の熱意が実って1979年に開館した市立小樽美術館には心ある市民らや道内外のコレクター、作家自身からの作品寄贈が絶えない。こうして集められた収蔵作品数はすでに2,700点を超える。2011、12年度はどうしたわけか寄贈が殺到、その数は150点にも上った。それらの新収蔵作品を披露する企画展「小樽美術の流れと現況」展(3月23日~5月6日)が開かれている。展示会場の規模の制約から新収蔵の全ては無理で、今回は第1弾として作品54点の展示となった。また、作家は物故者、現役を合わせて19人にのぼり、はからずも大正期から昭和、平成に至る小樽出身者または小樽ゆかりの作家たちによる小樽の美術の流れをたどる展覧となった。
 今回出品された作品を制作年で見ると1920年代から2008年までほぼ90年にわたる。大正から昭和初期にかけての小樽の繁栄期に育った洋画家には 工藤三郎(1888~1932)、三浦鮮治(1895~1976)、兼平英示(1898~1946)、谷吉二郎(1902~1960)、大月源二(1904~1971)ら道展の創立にも関わった作家がいるが、彼らは道内でもいち早く絵画研究所や公募展「太地社」を開催するなど、後に“小樽派”と称され「北海道美術の源流」としても親しまれた。  絵画史に一時代を築いた「エコール・ド・パリ」期にパリ遊学を果 たし、帰国後は小樽に戻り生涯を終えた工藤三郎の作品は「巴里の下宿」「裸体」 「港の見える風景」「鰊漁場」など合わせて8点に上る。大正末から昭和初めの制作で油彩 具象の原点をしのばせてくれる。小品ながら三浦鮮治の 「蔵王の火口」、兼平英示の「三保風景」「河岸」も貴重。三浦、兼平は実の兄弟だ。大正期に上京、川端画学校に学んだ谷吉二郎は家業を継ぐため 帰樽するが絵画制作に専心、道展創立や太地社結成に参画した。今回収蔵されたのは油彩 5点で「薔薇」「帽子の婦人」「林檎とバナナ」「柿とパン」 「アイリス」の油彩具象。思想的に小林多喜二と親交のあった大月源二(小林多喜二の新聞連載小説に挿し絵を描いた)の油彩 作品も10点が披露された。「エリモの浜辺」「雪の踏切付近」など風景のほか「かぼちゃと玉 ねぎ」「雪の上のにしん」「ハタハタ」など丁寧な筆致で描かれた具象絵画は この画家の人柄をしのばせる。
 札幌生まれの渋谷政雄(1900~1981)は小学生時代から三岸好太郎との交遊歴を持つ。私立北海中学(現北海高校)を経て北海道帝国大学(現北海道 大学)卒業後、樺太の製紙会社に就職するが、昭和5~8年に白日会展、同6年から独立展に4回の出品歴を持つ。同10年に小樽に転居、11年道展入選、12年会友、13年から道展会員として画歴を刻んだ。すでにある収蔵作品に今回、12年制作の油彩 「海」が新たに加わった。やはり札幌に生まれ、庁立札幌一中(現道立札幌南高校)で林竹治郎に学んだ鈴木伝(1908~1989)は昭和6年から庁立小樽高女(現道立小樽桜陽高校)の美術教師となり、 生涯同校での指導に尽くした。全道展会員、行動展会友にも名を連ねたが、残された作品の発掘は珍しく、今回は「建物(運河畔)」「卓上静物」 「小樽運河月見橋」の油彩画3点が展示された。保存状態が極めて良好だった点が注目された。
 今展の目玉ともいえるのが加藤一豊(1910~2000)の油彩「裸婦」。小樽生まれの加藤は明治大学在学中から岡田三郎助に師事、中央画壇の一水会 を舞台に画歴を積み、昭和59年から一水会幹部の委員として生涯を閉じた。ベッドに横座りした裸婦像はふくよかな女体がみずみずしい、やはり同12年 制作の逸品。一水会といえば道内画壇で指導的役割を果たしてきた伊藤正(1915~1989)の油彩大作「凍瀑“層雲峡早春”」「赤い扉のある家」の 2点も同美術館の伊藤コレクションに加わった。同42年制作の「凍瀑“層雲峡早春”」の格調は高い。物故作家では宮川魏(1928~1984)の油彩 「北辺断層・」とグワッシュ「無題」2点と富樫正雄(1913~1990)の油彩 「がんしん亭さん像」「雪」2点、そして国松登(1907~1994)の戦前作 「雛鷲の像」1点も。また、現役教師として57歳の若さで早世した鵜沼人士(1956~2009)の油彩 作「A氏の像」も新たに収蔵品に仲間入りした。
 現役作家の出品は5人の13点。長く道展会員だった札幌在住の木嶋良治はいずれも大作の「運河(ヴェネチア)」「雪降る日」「建物(影)」の 油彩3点。小樽出身の縁で作家からの寄贈。やはり小樽出身だが、関西方面で活躍する鶴山好一も超大作の「煉瓦の橋梁」と「廃屋」の油彩 2点を 作家寄贈で。また、道展幹部として活躍した豊島輝彦(小樽出身、札幌在住)は油彩 、水彩各2点、山田芳生(関東在住)の「男の像」「不安」油彩 2点、小樽在住の高齢女流作家中島光栄の「蝶の舞う丘」を。

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