市立小樽美術館 市立小樽美術館協力会

KANCHOの部屋

素描の技 時を刻む線描

sobyo-keiji[1] 油彩、水彩、彫刻など平面、立体を問わず、造形作家にとってデッサン、クロッキー、スケッチ、エスキースなどの素描は制作活動の出発点といえるだろう。美術家の脳裏に映り、浮かぶイメージやアイデアが形となって具体化する一瞬、そこに他者へのメッセージが生まれる。

 現在、当美術館で開かれている特別展「素描の技 時を刻む線描」(7月17日~9月20日)はそのような美術家の制作の“原点”に焦点を当てて企画された展覧会である。それぞれの作家の個展などで素描も出品される例もあるが、著名作家の素描に的を絞っての企画展は珍しいケースではないかと思っている。来館者の期待に十分応えられる内容になったと自負している。
 出品作家は油彩画家7人と彫刻家5人の合わせて12人、出品作は108点に上る。油彩 画家は故人、現役を含め高森捷三(1908~1977)濱本恵義(1914~2008)亀山良雄(1921~1997)栃内忠男(1923~2009)伏木田光夫(1935~)山田芳生(1946~)輪島進一(1951~)の7人である。また、彫刻家では木内克(1892~1977)柳原義達(1910~2004)佐藤忠良(1912~)阿部典英(1939~)國松明日香(1947~)の5人。ここで特記されるのは阿部典英、國松明日香(ともに札幌在住)の両作家には素描と同時に彫刻作品そのものも出品してもらったため、会場にある種の重量 感をもたらした点である。
 出品作が最も多い阿部典英の素描は29点に上る。アイデアスケッチを日課とする作家だけにその素描にナンバーを打って大切に保存しており、その素描に限った画集「海底」(2003年)「胎動」(2005年)の2冊を刊行した。同時に木や竹、アクリルなどによる彫刻作品「オヨメサンニナレナイオヨメサン」シリーズ2点、「ABE TEN MEN」シリーズ(10点組)「MOKUREIJIN」シリーズ(30点組)も出品され、素描と実作品の対照性が興味深い内容を見せている。
 一方、國松作品は木炭・コラージュの素描9点と鉄とステンレス鋼の立体「水面 の風」シリーズなど4点が並んだが、こちらは素描と立体作品が共通 項をもちながら微妙に独立した作品空間を見せてくれる。
 さて、平面作家の圧観は輪島進一の大作を含む11点と山田芳生の大小作品17点。輪島は「水景のリズム」「インフィニティ」「楽屋裏にて」などのタイトルで裸婦や踊り子、風景をモチーフに大判のマーメイド紙にペンで描かれたモノクロームの世界の完成度は高い。これは“素描”を越えた作品となっている。
 山田芳生の出品作は「妻と娘」「男の顔」などの素描11点のほか「女の立像」と題する連作5点と「心象風景」と題した1点を合わせ油彩 画6点が並んだ。描き込まれた油彩とデッサンの対比に興味がひかれる…
 最後になるが、佐藤忠良の素描8点や亀山良雄1点、伏木田光夫4点、栃内忠男「ふたつのりんご」1点、木内克の「裸婦」2点などの素描はいづれも札幌芸術の森美術館のコレクションから借り受けた貴重な作品であることを記して感謝にかえたい。

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