市立小樽美術館 市立小樽美術館協力会

KANCHOの部屋

美術館と教育現場を結ぶ 中村善策展の新たな挑戦

keiji-zen2[1] 商都・小樽が生んだ日本を代表する風景画家、中村善策(1901~1983)の画業をたどる特別展「中村善策の全貌展」(5月24日から7月21日)が当美術館1~2階の全展示室を使用して開かれている。今年は当美術館1階に常設する「中村善策記念ホール」の開設20周年の節目に当たるため記念展として企画された。

 展示された作品はいずれも油彩画で、当館所蔵の41点のほか道立近代美術館や北海道新聞、小樽商科大学など法人企業や個人所蔵の作品も含め、合わせて73点にのぼる内容は、その規模からいってもかつてない見応えのあるものになったと自負している。会場には中村画伯が活躍した一水会、日展などの出品作を中心に「小樽時代の善策」「一水会へ・疎開時代」「画風の展開・信州風景ほか」「北海道風景」「円熟の境地」の5章に柱立てし、生涯の画業の変遷をじっくり見て楽しんでもらう狙いだ。

 同時に中村善策が執筆した「風景画入門」「油絵の描き方」「クレパス画の描き方」などの書籍や、keiji-zen1[1]「風景画の四季」「風景画小品の描き方」「風景画の技法分解」などのタイトルで特集が掲載された往時の美術専門誌「アトリエ」のほか、スケッチ帳、自筆原稿なども陳列している。これらの資料は中村善策の制作意図や内面 生活をしのばせるもので、風景画の第一人者としての存在を裏づけるものといえるだろう。

 

 ところで今回の特別展を機に当美術館は教育現場との連携をめざして新たなプロジェクトに挑戦している。当美術館はかねて小中学生は観覧無料で開放されているが、この年代層の入館者数は今一つ伸び悩みの状態が続いている。そこで市内の各校にその打開策の一つとして「美術鑑賞授業」を働きかけたところ、市立松ケ枝中学校が一学年(一年生全員)の「総合学習(ゆとり教育)」のカリキュラムに取り組むというプログラムに組み込まれたのである。その内容は現場主義を貫いた画伯の足跡をたどる「中村善策の写 生地めぐり」(6月4日実施)で、作品「張碓のカムイコタン」「石狩湾の丘の邑」などの写生地となった張碓や奥沢水源地、鰊御殿のある祝津の3地点を一年生70人余がバスを連ねて訪れ、祝津では実際にスケッチも行った。これらのスケッチは今年11月の1ヵ月間、善策記念ホールに展示する計画である。また、同校では中村善策をテーマに壁新聞の制作に取り組み、こちらは学校祭で展示されるという。
 この企画は初めての美術館と教育現場を結ぶ画期的なチャレンジと受け止めており、その成果を踏まえて次年度からの当美術館定番のプログラムとして定着させたいと期待を膨らませている。育ち盛りの小中学生に小樽が生んだ画家を知って貰い、美術館に親しみ、そしてその美術館を小樽っ子が誇れる存在にしたいと願ってやまないからである。

第61回美術市展を皮切りに文化祭開幕

 芸術文化の秋を彩る第58回小樽市文化祭が9月26日、市立小樽美術館を会場とする第61回美術市展で開幕した。小樽市と同市文化祭実行委員会主催の恒例の文化祭は当美術館のほか市内の産業会館、市民会館、市民センター、生涯学習プラザなどを会場に11月3日まで盆栽展、お茶会、ダンス&バレエフェスティバル、映画会、俳句、短歌、川柳大会など、多彩 なイベントが繰り広げられる。

 当美術館を会場とする市展は市内唯一の公募展で、その年輪は文化祭を回る伝統を誇る。当美術館2階と3階の市民ギャラリーを開放、一般入選作93点と市展委員の作品58点の合わせて151点が会場を埋め尽くした。
 2階ホールは一般入選作を中心に油彩31点、水彩32点、パステル、彫刻各1点、工芸26点が並んだ。市展賞をはじめ市長賞、教育長賞など受賞作がこのホールに陳列され、見ごたえのある展覧となっている。
 一方、3階ギャラリーは委員の作品を集中的に飾られ、水彩 15点、日本画10点、油彩28点、版画7点の構成。いずれも実力派の作品だけに落ち着いた雰囲気が楽しめる。

 美術市展の会期は10月7日までだが、当美術館ではこのあと書道市展(10月10日~14日)写真市展・和紙ちぎり絵点(10月17日~21日)高校生作品による小樽ユース展(10月24日~28日)が開かれる。入場料無料。

 なお、上記期間中、当館1階常設の中村善策ホールでは「中村善策の軌跡 素描・パステルの魅力とともに」のタイトルで、素描・パステル作品21点が、油彩 17点とともに陳列されている。こちらは有料(200円)。

『抽象と具象』の世界展

keiji-tt-28[1] 当美術館の企画による特別展「高橋好子/冨澤謙展」が7月28日のオープニングセレモニーで開幕した。小樽の夏の一大イベント「潮まつり」中日のこの日朝はあいにくの雨模様となったが、開幕式には高橋、冨澤両画家をはじめ小樽市教委、北海道新聞小樽支社など関係機関のほか美術愛好者らほぼ80人が出席、同特別展のスタートを祝福した。

 この特別展は昨年から当美術館が取り組む「小樽美術家の現在」第2弾。小樽在住の現役作家を取り上げ、その制作の軌跡と近作を陳列、紹介するのが狙いだ。今回は両画家の作品各25点が壁面を飾っている。

 高橋好子は今年80歳の傘寿を迎えた油彩画家。画歴は60年を重ね、具象-非具象-抽象画という特異な道keiji-tt-1[1]のりを刻んできた。人間の生死に寄せる関心は古寺・古仏を訪ねる仏教への帰依、さらには「空」をテーマとする制作に向かう。これらの作品群は、洋画のジャンルにありながら“東洋の精神”を感じさせる。

 冨澤謙は小樽出身の画家の伝統ともいえる油彩風景画を追い続けてきた一人である。小樽港、運河、祝津、街並みなどを画題に100号の大作が並んだ。確かなデッサン力に裏打ちされた画面は豊かな色彩感にあふれ、ヨーロッパはイタリア、シチリアなど地中海へとロマンは広がって今年73歳という年齢を感じさせない。

 ともに小樽に生まれ育ち、keiji-tt-2[1]教職の道を勤め上げた両画家の制作意欲は衰えを知らない。見ごたえのある展覧会になったと自負している。 なお、中村善策記念ホール(1階)は、「中村善策の軌跡 素描・パステルの魅力とともに」と銘打ち、油彩17点のほか素描・パステル21点を展示している。

没後20年 森本三郎展/追悼 森本光子展

  当美術館の特別 展「没後20年 森本三郎展」(5月26日~7月1日)に続く「追悼 森本光子展」が5日、開幕しました。この特別展は計画当初、森本三郎没後20年の節目を迎え、三郎ひとりに的を絞ってその画業を紹介する予定で準備作業に取り組んでいたのですが、昨年の8月初旬、やはり画家だった森本光子夫人が急逝したため、路線修正を迫られることになりました。生前の夫妻は、小樽はもちろん札幌、東京での二人展を年中行事化していたことで知られており、お二人がともに天国に召されたからには三郎展だけではファンに納得されまいと考えたのでした。
 しかし、限られた壁面の当美術館で二人の作品展を同時開催するとなれば展示する作品も限られてしまいます。そこで特別展としては異例の会期分断を決意、前期を三郎展、後期を光子展としてこれをワン・セットとする展覧会が実現することになりました。
 今回の特別展を機に地元の小樽商大生が「小樽芸術文化ルネッサンス研究会」を立ち上げ、ヤングパワーによる協力な支援活動に取り組んでくれています。お陰さまで前期の三郎展の入場者数はこれまでの実績の二倍を越える記録となりました。
 続く光子展は人物、人形、静物画など油彩78点が並びました。また、発行された著書ほか、遺品も陳列されています。夫妻の作品を網羅した豪華な二人の合体画集も「お買い得」と好評をいただいております。
 三郎展の盛会ぶりが光子展にも押し寄せるよう祈っているところです。

『イチハラ・ファンタジー』を楽しんで

keiji-ichi1[1] 2007年の幕開けを飾る当館の企画展「一原有徳(いちはらありのり)・版の魔力 96歳のドローイングとともに」(1月27日~5月20日)が始まりました。当館脇を通 る旧国鉄手宮線跡地の軌道では、これも開幕間近の「第9回小樽雪あかりの路」イベント(2月9日~18日)の準備作業が進んでおり、祭り好きの小樽っ子はスノーキャンドルやらアイスキャンドルやら、さまざまの工夫をこらした灯の制作に余念がない。この期間に当館も9日から18日まで館内の吹き抜けを多色にライトアップ、イベントの盛り上げにひと役買おうとしています。
 さて、本題の「一原有徳」展です。
 一原有徳という存在をひと言で表現すれば「小樽が産んだ国際的版画家」となるでしょう。版画といえば木版、石版(リトグラフ)銅版(エッチング)シルクスクリーンなどがよく知られる作品ですが、一原の場合、この“常識”からどんどん飛躍して、独自の「イチハラ・ワールド」あるいは「イチハラ・ファンタジー」とも言える作品群を創出してきました。
 直径50センチほど、高さ3メートルの円柱にモノタイプ版を巻きつけた作品はトーテムポールでしょうか。壁面 をおおう白黒モノトーン大型組版は大都市の喧騒か。スチール版をアセチレンバーナーで焼き込んだというブランディング技法の作品。さらにはバイクのチェーン、歯車の真空間、トランジスタラジオの配線パネル、ボールベアリング、モーター、時計の文字盤など、手当たり次第と思えるほどの部品類を組み合わせた作品も見られます。どんな素材も作品にしてしまう旺盛な創作意欲には驚かされるばかりです。
 そのタイトルは「H96-2」「COM ZON」など、アルファベットと数字が並び、単なる記号のようで、意味を読みとること不能です。「作品は作家の手を離れるとひとり歩きするもの」と言われますが「イチハラ・ファンタジー」は、まさにその典型でしょう。
 96歳の高齢ながら、最近は絵具を紙に垂らす技法(ドローイング)で制作活動は衰えていません。ただ、高齢による体力の衰えには勝てず外出は見合わせており、残念ながら今回の展覧会場に姿を見せることはかないません。
 ともあれ、小樽が産んだ偉才による「イチハラ・ワールド」を多くの美術ファンに楽しんでいただきたいと念じています。
 また、この機会に世田谷美術館長である酒井忠康氏の講演会「幻影の“版”に生きる96歳の一原有徳」(3月17日、当館第1研修室)を計画しており、多数の聴講を来たいしています。
 一方、常設展の中村善策ホールでは「中村善策-水面の詩情」と題して、収蔵作品の中から20点を展示していおり、一原有徳展と合わせてご観覧ください。 keiji-ichi2[1]

小樽 美術家の現在シリーズ1 小川清/鈴木吾郎展

op-2[1] 8月に入って北国のマチ小樽も暑い夏の日が続いています。今年で40回目の年輪を刻んだ真夏の一大イベント小樽潮まつり(7月28日~30日)が例年にない盛り上がりをみせ、その熱気が連日の猛暑を誘ったのかも知れません。
  市民の憩いの場を自認する市立小樽美術館では「北海道 海のある風景 山のある風景」展に続く今年度の特別 展第2弾となる「小樽 美術家の現在」シリーズ1として画家小川清と彫刻家鈴木吾郎の2人展(7月29日~9月18日)が開かれています。この企画展は小樽在住の現役の作家を2人展形式で今後5年間のシリーズで紹介していこういう狙いで、今回はその第1弾というわけです。
 1934年小樽生まれの小川清は、愛着の深い地元小樽の風景を描き続ける油彩 画家です。みなと小樽の運河、坂道、路地、古い屋根の続く眺望などをモチーフに、茶色を主体とした作品をあくこともなく制作してきました。道展、創元会展などへ出品、道展協会賞受賞後は中村善策の誘いで一水会展に出品し、数々の受賞を経て同会会員になった(1989年退会)経歴の持ち主です。歴史を重ねた小樽の街をくまなく歩くことで見つけ直し、独自の風景画のありようを確立した作家です。また、市民に親しまれるタウン誌「月刊おたる」の表紙画を担当して450点を超え、小樽の魅力を伝え続けています。
op-1[1]  今回は1964年(昭和39年)製作の「ガード横丁」から2005年製作の「休日の漁港」まで40年余の画業を、年代を追って選び抜いた油彩 27点と、同時にスケッチや「月刊おたる」も展示しました。「小樽運河」「中央埠頭」「船見坂」「荒巻山」「崖の建物」など、小樽っ子にとってはおなじみの季節折々の風景がしっかりとした情感とともに楽しめる展覧となりました。

  一方、1939年芦別生まれの鈴木吾郎は道立札幌西高校から北海道学芸大学(現北海道教育大)札幌分校特設美術科に進み、藤川叢三に師事、1960年から道展を主舞台に活躍する作家です。人体像の彫塑作品を制作し続ける鈴木は、これまで全道各地に50基を超えるモニュマンを残す作家ですが、教職の身で道内を転々、1980年代の道立小樽潮陵高校勤務の縁で小樽に居を定めました。その後、母校の道立 札幌西高校美術教諭の最後に1995年に教職を離れ、彫刻製作に専念する生活に入りました。
  今回は1970年代から2005年までに製作したブロンズ、FRP(合成樹脂)テラコッタ(素焼き)などの作品42点と、デッサン10点並びましたが、中でも最近作の健康的で柔和なテラコッタの女性像の魅力が見どころかと思われます。 ともに居を定めることで小樽にこだわる2人ですが、その2人の作家のあり方は作品製作の上で対照的に見えます。というのも、そのモチーフが1人は風景にこだわり、そしてもう1人は人物にこだわるという対照性がこの展覧会を興味深いものにしていると思うのです。
  小川清の作品群は風景画といっても海、山などの自然ではなく、港、運河、工場、市場、家並み、坂道など人間の営為としての構築物であり、人物はほとんど登場しません。かわって鈴木吾郎の作品群は人物の微妙な表情や姿態、しぐさにただよう情感の追求がテーマと思われ、その2人のコントラストがこの展覧を豊かなものにしていると思うのです。
  合わせて当館常設の中村善策、その軌跡「季節を描く」は、1914年製作の「海景」から1980年製作の「雪もよい」まで21点が壁面を飾っています。小川清展と見比べてみるのも一興かとおすすめします。

北海道・海のある風景/山のある風景

 観光、行楽シーズンも本格化し、小樽の街にも観光客の姿がめっきり目につくようになりました。その季節に呼応すべく当美術館の今年の特別 展第一弾「北海道 海のある風景 山のある風景」展(6月3日-7月23日)が開幕しました。先頃、北海道新聞社が刊行した同名の画集二冊から選りすぐった作家30人の作品49点を集めた展覧会です。
  海、山に囲まれ、天然の良港を持つ小樽は画家達には恰好の風景画の画題に恵まれ、多くの作品を生んできた歴史と伝統があります。運河や船の浮かぶ港、坂のある街並みや古い建造物、そして周辺の自然景観など、絵心を限りなく触発する小樽で、風景を文脈にとらえた企画展の開催は極めて自然な流れといえるでしょう。
  集めた作家の名を挙げてみると、油彩作品30点の中には林竹治郎、工藤三郎、木田金次郎、中村善策、田中忠雄、田辺三重松、国松登、小川原脩、小竹義夫、伊藤正、小谷博貞ら北海道を代表する物故作家らが名を連ね、さらに片岡球子の「羊蹄山の秋色」、北上聖牛の「はなれ国の初夏」、川井坦の「昆布とりの島・雨」などの日本画、そして北岡文雄、金子誠治、阿部貞夫らの木版画など、見ごたえのある内容になったと自負しています。
  作品群は、道立近代美術館、小川原脩記念美術館、木田金次郎美術館、財団法人荒井記念美術館などのご協力を頂き、貴重な作品を借り受けて実現したものです。道内各地に画題を求めた作家たちの鋭い感性を是非堪能して欲しいと願っているところです。
  また、この特別展と同時に、常設の中村善策展も収蔵作品を掛け替え「中村善策・その軌跡」シリーズの「季節を描く」として20点を陳列しました。合わせて楽しんでください。

ごあいさつ

keiji-self はじめまして――この4月から吉田豪介前館長の後を受けて就任しました。開館以来、四半世紀を超える歴史を刻んできた当美術館がより一層市民に親しまれ、小樽っ子の誇れる存在になるよう微力を尽くしたいと考えておりますので、美術ファンの皆様の一層のご支援とご協力をお願い致します。
  さて、いささか私事になりますが、就任までの経緯を少々述べて“自己紹介”にしたいと思います。小生は昭和37年(1962年)北海道新聞の記者職として入社、平成11年(1999年)3月で同社を編集委員のポストで退職後、関連会社の道新情報研究所に5年ほど勤務して平成16年(2004年)6月に退社、完全リタイアして「オール休日」の日々を過ごしておりました。

 平穏な暮らしが続くこの2月半ば、突然、小樽市教育委員会から美術館館長への任用の打診が飛び込んできました。文字どおり「青天のへきれき」の驚きでした。振り返れば、小樽とのご縁はかつて道新記者として4年ほど当地でお世話になり、小樽の次の転勤先が道新本社学芸部(現文化部)で美術担当して3年。 その後、本社政治経済部、東京政治経済部を経て北見、栗山、釧路、 根室と地方を巡り、本社に戻って生活部長、文化部長、編集委員と記者人生を歩んだので、美術界から見れば“門外漢”というのが正直な心象でした。しかし、人生の中で二十代から三十代の頃に関わった小樽、そして学芸部時代の記憶は鮮明なものがあり、誰もがそうであるように、私自身も「小樽好き」にかけては人後に落ちるものではないという自負もあります。
  殺伐としたニュースが続く昨今、一方では「心の時代」を大切にという論評も多く、故郷(ふるさと)回帰のムーブメントもしきりに伝えられます。「小樽」というマチの響きは、そのような時代の空気にぴったりのように感じています。そんな「故郷づくり」に役立つような市民の目線に立った美術館のマネージメントを心掛けたいと思うや切なるものがあります。
  札幌から小樽へ週二回(火・土曜)高速バスで通勤しています。沿線から望む日本海は春の穏やかな表情を見せてくれます。「海は小樽の財産」と思いつつ、初出勤の日に知らされた当美術館の次の企画展は「海のある風景、山のある風景」(6月3日~7月23日)。力ある諸作家の傑作50点の展覧にご期待ください。

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